お父さんが白内障になったときに、どう見えるのか聴いたことがある。白っぽい薄い柔らかいガラスか何かが眼の中にあるみたいだと言っていた。白内障の手術をした父の眼の中には、人工水晶体という薄いガラスみたいなものが入っている。

友人Mとは中学からの仲である。十余年付き合いのある彼の視力は0.06くらいだという。わたしは眼だけはやたらと良くて視力が2.0近くある。理科の授業で使うような小さな30倍のルーペを持っていて、ときどき葉っぱや埃を眺めて遊んでいるのだが、これをみるには、彼はもう一枚ガラスのレンズを挟まなければならないのだ。

眼が悪くなったら、輪郭がぼけていて色や光や影の滲んだ世界が見えるとわたしは期待している。Mや父はそれを見たのだろうか。
わたしは分厚い磨りガラスを愛している。磨りガラスを挟むことで彼の眼を手に入れるのだ。コントロールできないものに憧れているのだと思う。眼鏡を外すのは不安だとMは言った。