2016.4.28


酒をしこたま飲んだ夜、寝っ転がって響く心臓の音を聴くのが好きだ。頭に血が上ってこめかみの辺りがドッドッと脈打ち、ボーっと集中すると心臓の音がすごく大きく聴こえるのだ。あの轟音が自分にしか聞こえないのが不思議である。息を止めてみると、あれ程ではないがいまも少し聴こえる。

ばーちゃんの耳は、大きな低い声で話してやらないと奥まで音が届かない鈍い穴だ。静かなのだろうとおもってなんとなく羨ましいような気がしていたけれど、もしかしてあの轟音がよく聞こえるかもしれないとおもうと、わたしはもう自分の耳が暗い穴になるのが待ち遠しいようにさえ思ってしまう。
ばーちゃんに静かなの?と大きな声でたずねると、え?と言われた。ばーちゃんはすこし困ったように笑っていて、わたしは大丈夫だよとゆっくり大きな声で言った。