2023/05/25

ベランダ側からゆっくりとまっすぐにリビングを通り抜けてキッチンの方へ向かって、割と大きな黒い虫が飛んでいく。わたしもタバコを吸おうと思ってキッチンの方へ歩いていたので、その虫と少しの間、およそ2歩、並走することになったようだった。もっと前に気づいていればキッチンへは行かなかったが、移動し終えてドアを閉める寸前に、後ろをついてくるその虫に気づいたので、風をなるべく起こさないように、スッと引き戸をゆっくりと閉めた。締め出す(あるいは、自分自身をキッチンに閉じ込める)ことに成功したかどうかわからない。入ってきたような気もするし、リビングのところにいるかもしれない。結果が不思議に不明瞭で、手応えがない。そもそもなんの虫だったかわからない。私のパーマに絡まってるかもしれないし、急にブーンと飛び出してきたらと思うとドキドキして、とにかく心の準備が必要だ。虫を部屋から出したい時には、電気を消して窓を開けておくと外の光に惹かれて出ていってくれると聞いたことがある。うちの電球はキッチン以外はLEDなので、虫にとっては真っ暗なのかもしれないねと小山君が言う。キッチンの方が光っているから、虫は近いたんだろう。虫、どこだ…。と、探す。耳を立てて、音を聞こうとする。どっかに挟まってるかもしれない。虫は大体、急に姿が見えないときには、そういうことになっているものだ。死骸を踏んじゃったら嫌だし、寝る前に布団の中から出てきたり、タオルの間からいつか発掘されるのも嫌だ。空気清浄機の排出口に落っこちてないか、小山君が確認している。いないようだった(ホッ)。ふとキッチンに置いてる小さな椅子のクッションにでっかい埃がついてるのを見つけ、あまりに大きいのでよくよくみると、細い蛾であった。私が探していた虫は小さめのカナブンだったのだけど、実際にはこんなにおとなしい虫だったのかと安心して、「い、いた……!」とカーテンを開いておいて、小山くんがそっとティッシュで捕まえておとなしい埃のような虫をふわりと静かに外へ逃した。